想定以上の安全性と利便性を追求。

鉄道設計部・部長大門 勝也

鉄道土木という専門分野を持つ旭調査設計では、設計でも鉄道インフラを多く手掛けてきた。線路上に市道である通路を架ける設計で、大門は、鉄道の設計基準と道路の設計基準の両者を踏まえ、安全性と利便性の両者を追求するという難題をクリア。そのとき、特に悩まされた80cmを巡る攻防とは?

14線+公道をまたぐ長い自由通路を設計

直江津駅の北口と南口を結ぶ自由通路(側面全景)

新潟県鉄道発祥の地・直江津駅改修に当たり、大門は北口と南口を結ぶ自由通路の設計を担当した。直江津駅は歴史上の意義だけでなく、3線乗り入れで1日約3600人が利用し、車両基地としての役割も担うなど、上越地域の交通の中核的な役割も持つ。自由通路は駅構内の14本の線路をまたぎ、南口では公道もまたぐ、全長158mのロングサイズ。そうした規模と豪華客船「飛鳥」をイメージしたデザインを表した概略設計を元に、施工業者がスムーズに着工できるよう、構造設計・意匠設計・設備設計を含む詳細設計に挑んだ。

当時は阪神・淡路大震災後の耐震化見直し時期に当たり、耐震基準は暫定的なものだった。加えて、建設地は軟弱で特殊な地盤であったため、大門は一般的に考えられる基準より一段階上げたレベルで設計することに決めた。「公共的な施設は、誰にとっても、どういう時にも安全でなければ」と考えたからだ。

発想の転換で難問をクリア

最大の課題は、自由通路を低くしてほしいという要請だった。低くできれば階段の段数を減らすことができ、利便性が高まり、コストも抑えられる。しかし、鉄道インフラの建設基準で線路上に設置する施設の高さ、つまり、線路と自由通路桁下までの距離は定められており、通路そのものを低く建築することはできない。工夫できるのは、通路の舗装路面と橋脚の間だけ。「一般的には断面がI字型の鈑桁(ばんげた)で路面を支えるところを、中が空洞で四角形の箱桁に変更しました。鈑桁の高さ-箱桁の高さ=80cm。低くできただけでなく、強度の向上も叶えられ、結果的には大成功。階段を6段、減らすことができました」。

公共的な施設では、利便性の観点から考えることも重要だ。「一般的にはこうだからと受けれるのではなく、現場を見て『こういうことが考えられる』と自ら様々な条件を出して、『だから、こうすべき」と解決策を考え、その中で最善の提案をしていかなければ。そういう仕事の進め方を学んだ現場でした」と、大門は設計を行った1996年を振り返る。

多くの人に利用される光景に達成感が高まる

鉄道インフラの設計では、鉄道ならではの制約や難題も多い。線路上に通路を建築するには、狭い線路間のどこにどのように足場を組むのか、建設用重機は使えるか、ケーブルや架線は工事の支障とならないか、移動が必要かを確かめ、さらに、市街地の場合は騒音や振動への配慮も欠かせない。工事中も鉄道を走らせる場合は、工事時間は深夜に限られる。そうした制約の中で現実的に施工ができるように考えるのも、詳細設計の役割だ。

直江津駅の北口と南口を結ぶ自由通路(通路部)

詳細設計に1年、工事に2年を費やし、2000年、自由通路の供用開始。工事前も工事中も何十回も訪れた場所は、大型客船にちなんで「あすか通り」と命名され、市民が行き来する場所になった。「高校生が自転車を押しながら通っていく様子を見て、利便性という言葉の意味を実感できました。こういう風景が見られるのはうれしいですね」。大門は、多くの人に利用される施設を設計する手ごたえを感じていた。