測量で「安全」を守る。

測量部長轡田 端午

どんなに堅牢な構造物にも、地震や地滑りなどの自然災害により、また経年劣化により、亀裂や破損、変形などが起こりうる。大規模な被害に対しては復旧工事のための測量を行い、日常の測量ではわずかな兆しも見のがさず安全の維持に貢献する。轡田は入社以来、測量一筋。JRの水力発電ダム管理と災害復旧に力を発揮してきた。

4つのダムをミリ単位で管理

山本第二調整池の測量

信濃川本流に建設された宮中取水ダムで取水された水は、3つのアースダム、浅河原調整池、山本調整池、山本第二調整池を経由して発電所に運ばれ、東京のJR運行に必要な電力を生み出す。轡田は2001年からこれら4基のダムを担当し、3カ月ごとの測量で、ダムの健全性と堆積土砂量を管理している。担当してすぐ、轡田は一つの疑問を抱いた。「ダムを計測すると、0.1ミリ単位の測量結果にわずかながら変動があり、グラフが波打つんです」。グラフは毎年同じ曲線を描き、平均値は変わらないことから、地盤変動ではないし、測量誤差でもなかった。そもそもコアを持つフィルダムは動かないと言われ測量と検討を繰り返し、轡田はその原因を夏と冬で地下の水分量が変わることによる季節変動だと導き出した。

2004年の中越地震では、浅河原調整池にはダムの亀裂が、山本第二調整池には堤体の歪みが発生。「長年にわたって管理してきたのは私です。修復のための測量を他の人に任せたくない、自分でやり遂げたいと思いました」。療養から復帰したばかりだったが、轡田は測量を志願。蓄積したノウハウを注ぎ込んだ。

長野県北部地震の復旧への挑戦

2011年3月、新潟県津南町と長野県栄村を震源とする長野県北部地震が発生。震度6強の地震の被害は甚大で、飯山線も被災。直ちに轡田は現場に向かった。「基礎部分が崩落し、3カ所で線路が宙ぶらりんになっていました。測量しなければ復旧工事ができないので、私たちが真っ先に動きました」。

いち早い復旧のために採用されたのは、補強土工法の原理を用いたRRR工法。土を層にして積み上げていく方法だが、それには日々測量し、翌日の施工のための位置出しをする必要があり、轡田のチームは1カ月間、現地に通った。「現地には宿泊できる場所がなく、通わざるをえなかった上に、土砂崩れで道路は片側通行。さらに現場はまだ雪深い。入社以来、最も困難な現場でした」。それだけに、4月29日に完全復旧した線路を列車が走る様子をニュースで見た時の感動はひときわ。「厳しかった分、達成感も大きく、忘れられない現場になりました」。

測量のノウハウを継承していきたい

GNSSや電子基準点の普及、ターゲットがいらないノンプリズム・トータルステーションの登場で、測量技術や環境は大きく変化。「けれど、そうした技術以上に、技術者が身に付けなければならないことがあります」と、轡田。それは、段取り力だ。旭調査設計が得意とする鉄道インフラの測量は、電車のスケジュールをぬって作業を行わなければならず、また、ダムの測量は水位を下げる数日間に完了しなければならない。つまり、仕事は時間との闘いなのだ。限られた時間の中で、測量の正確性と、効率と安全をすべて叶える必要がある。

ドローンを活用して3次元測量を実施

「これからは、そうした当社にしかできない測量のノウハウを後輩たちへ継承していきたいと思っています」。それに加えて、一人ひとりが能力を発揮でき、互いを認め合い協力できる環境にしていくことも勧めていきたいと言う。「鉄道で鍛えられた当社の専門性は次の世代にも必ず求められることですから」と、轡田は誇らしげにほほ笑んだ。